最近の労災事件の現場から〜長時間労働でうつ病発症—会社に1000万円超の賠償金を支払わせる!
2018年5月30日
労働災害(労災)というと、「災害」という言葉から、作業現場や通勤途上の事故でケガをした場合のこと、と思いがちですが、精神的な病気になった場合にも労災となるケースがあることを知ってますか?今回は、そんな精神疾患の労災事件についてご紹介します。
直近3ヶ月に300時間の残業!
Aさんは、30才の時に中堅機械メーカーに就職し、上司から言われることに逆らわず真面目にコツコツ仕事を続けていました。会社はそんなAさんを馬車馬のようにこき使い、1ヶ月の残業時間が70時間を超えることが普通で、多い月には126時間にも及びました。そのため退社時間が午後10時、11時になることはザラで、深夜12時を過ぎることも珍しくありませんでした。
このような過度の長時間勤務がたたって、入社5年後の頃にAさんはうつ病に罹ってしまい、休職するに至りました。休職直前3ヶ月間の残業時間は300時間を超え、1か月平均100時間を超える状態でした。
Aさんは休職して治療に専念しましたが症状はなかなか改善せず、病院に通い続けましたが通院以外はほとんど外出することもできず、家族らは、Aさんが自殺してしまうんじゃないかという心配で、お母さんもまた心を病んでしまうという二次被害も生じました。
うつ病罹患で損害賠償請求ー安全配慮義務違反
うつ病が発症して1年半経っても症状が改善しなかったため、自分で労災申請をして12級の労災と認定されました。当事務所に相談に来たのはその頃で、労災補償だけでなく、会社に対する損害賠償請求ができないか、という相談でした。
会社には、労働者の健康状態に配慮して、病気や怪我をさせないよう、安全に仕事に従事させるべき「安全配慮義務」というものがあります。長時間労働を強いて、その結果としてうつ病に罹患させたような場合には、安全配慮義務違反として労働契約上の損害賠償義務を負うことになります。Aさんはこの損害賠償請求を求めて相談に来ました。因みに、労災補償では「慰謝料」は出ませんが損害賠償請求なら損害に含められます。
私は、Aさんの依頼を受け、会社と交渉しました。会社は、長時間労働の事実は争わなかったものの、発病との因果関係や本人の基礎的な性格などを主張して反論して来ましたが、一定額の支払いには応じる姿勢を見せました。
Aさんとしては、発病から3年に及ぶ治療による自分及び家族の苦しみを思うと、会社提案は到底満足のいくものではありませんでしたが、訴訟による精神的負担等も考えて、最終的に1000万円を少し超える金額での和解に応じました。
「働かせ方改悪」を断固阻止
厚生労働省の統計によると、精神疾患の労災認定は年々増加しており、また、余裕のない職場でのパワーハラスメントが重なってうつ病罹患というケースも増えています。そのような背景のもと、政府によるニセ「働き方改革」=「働かせ方改悪」が進められていますが、「働き方改革」というのは、Aさんのような被害を生まないためにするべきなのに、今安倍政権が推し進めようとしている「改革」がそうなっておらず、過酷な働かせ方を追認する内容になっていることはとても許せません。
このような改悪は断固阻止しましょう
弁護士 伊 藤 勤 也