昨今の成年後見制度の現場から⑨(番外編)
2018年4月11日
「認知症高齢者列車事故の最高裁判決について」
最高裁は、2016年3月1日、愛知県大府市の認知症の男性(91歳)が徘徊中に列車にはねられた事故をめぐり、JR東海が男性の妻、長男らを被告として損害賠償を請求した訴訟で、「家族に責任はない」と判断し、家族の賠償責任を認めた一審、二審判決を破棄して原告の請求を棄却する判決を言い渡しました。同事件では、一審は妻と長男に約720万円、二審は妻に約360万円の賠償を認めていましたが、認知症患者を抱える家族の実情を無視した余りにも過酷な判断と批判を浴び、大きな注目を集めました。
争点は、男性の妻、長男が民法714条の監督責任を負うか否か。同条項は、病気や障害で判断能力がない者(責任無能力者といいます)が不法行為によって他人に損害を与えた場合、監督すべき者が賠償責任を負うことを定めています。最高裁判決は、同居の妻だからといって当然に監督責任を負う者ではなく、個別の事情に基づいて判断すべきであり、妻自身は85歳で認知症を患っていたこと、長男は別居していたこと等を考慮し監督責任を否定しました。最高裁は、どういう場合に監督責任を負うかについての明確な基準を示していないため不安は残りますが、結論は妥当であったと思います。認知症高齢者による交通事故等も多発しており、その損害をだれが負担すべきなのか、社会全体で考えていく必要がありそうです。
弁護士 長谷川一裕(名古屋北法律事務所)
(「年金者しんぶん」へ寄稿した原稿を転載してます)