国は教育の内容に介入していいの?
2018年4月13日
前川喜平・前文部科学次官を授業の講師に呼んだ後、文部科学省(文科省)が名古屋市教育委員会を通じ、授業内容の確認をした問題が報道されています。この問題は実は憲法上重要な問題をはらんでいます。
憲法では、26条1項で「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と教育を受ける権利を規定しています。
そして、国が教育内容を統制した戦前の反省から、新憲法の下では、国家が教育内容について介入することは抑制的であるべきとされてきました。現在でも、その時の政治的多数派の意見で教育内容が左右されるようでは、子どもが自由かつ独立の人格として成長することができなくなってしまうので、民主主義国家といえども国が教育内容に介入することは控えられるべきです。
そのため、教育基本法16条は「教育は、不当な支配に服することなく」行われるべきと定めており、教育に関する事務を行う教育委員会は国ではなく、地方自治体に置かれます。
市長、知事は、教育委員の任命を行う事が出来ますが、個々の学校の教育に関して直接に介入したりできません。文部科学大臣も教育委員会に是正を要求したり、調査したりできますが、現場の個々の授業の内容について問い合わせを行うことは教育現場を萎縮させてしまう可能性があります。
今回の調査は、前川氏が文科省の組織的天下り問題で引責辞任したことや、「出会い系バー」に出入りしていたと報じられたことに触れた上で、授業の内容や目的、講師を依頼した経緯などについて質問しています。また、録音データの提供も求められたそうです。これを受けた側にとっては、事実上のものとはいえ、授業に問題があった、国から目をつけられたと考えるかもしれませんし、同じような授業を行おうとしていた学校に対して萎縮させてしまう可能性があります。
仮に前川氏を呼んだ授業に問題があるのであれば、まずは教師、学校、親、子ども達の対話を通じて正されるものであり、国が必要性もないのに報告を求めるべきではありません。今回の件は、国が個々の教育内容に介入しようとした悪い前例として記憶されることになるでしょう。
弁護士 白川秀之(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)