中小企業における「取締役の責任」問題(2)
2010年9月24日
『取締役が経営判断について責任を問われることは例外』
前回は、取締役の権限と責任、会社における取締役会の役割がテーマでしたが、今回は、
取締役の責任における問題点の一つ、「経営判断の原則」についてお話します。
経営上の判断
会社経営においてその営業規模を維持し発展させるためには、ときに冒険的な判断をすることが必要となる場合があります。また、従来は順調に経営されてきた会社において、多少経営状態が悪化したからといって直ちに取引を中止するわけにもいきません。このように、会社の経営には多かれ少なかれリスクが伴うのが通常です。そして、その際のリスクが現実化し結果的に会社に損害をもたらしてしまうことも起こりうることです。
この場合、取締役の経営判断に基づく事業の失敗が結果的に会社に損害を生じさせたからといって、直ちに取締役の会社への損害賠償責任が認められてしまえばどうなるでしょうか。取締役はそのような責任追及を怖れて委縮してしまい、会社のためになるような利益追求の機会をも避けるような判断をするようになってしまいます。
そこで、必要となる考え方が「経営判断の原則」です。この原則は、「取締役は経営上の判断の誤りについては、会社に対し過失による責任を負わないものとし、裁判所も原則として経営上の判断の適否については干渉せず法律問題としない」という法則です。もっとも、ありとあらゆる経営判断について責任が認められないわけではなく、取締役の判断が著しく不当である場合には善管注意義務違反の責任を負うことになります。
具体的には
それでは、どのような場合に取締役の責任が認められ、どのような場合に責任が否定されるのでしょうか。一般的には、取締役が判断した当時の状況に照らして合理的と考えられる情報収集・分析、検討がされたか否かが指標となります。またそれ加え、その経営判断の種類(貸付け、子会社の支援、新規事業、投機行為)に応じて、さまざまな要素が検討されます。たとえば、新規事業の開始であれば、会社の現状、従前の本業の業績予測、新規事業の現状及び将来の動向、市場調査、投資額、資金調達の方法などの情報を収集・分析、検討し、不注意な誤りのない認識をもって経営判断をしたか否かがポイントとなります。
ちょっと複雑なようにも思えますが、ひとことでいうならば、「その経営判断が通常の企業経営者として著しく不合理なところがなかったかどうか」という点が、取締役責任の有無の分かれ目になるといってよいでしょう。
弁護士 長谷川 一裕
中小企業メールマガジン No.11(9月8日発行)より転載。