中小企業と交通事故(4)ー役員の休業損害−
2014年3月25日
前回の話は、従業員が交通事故の被害者になった場合でしたので、今回は、会社の役員が被害者となった場合についてお話しします。
(1)役員の休業損害の算定方法
交通事故の損害の一つには、働くことができなくなったことによる収入の減少、いわゆる休業損害というものがあります。
取締役など会社の役員については給与ではなく役員報酬ですが、休業により報酬を受け取ることができなくなった場合には、休業損害が認められることになります。
ただし、従業員の給与と異なり、役員の休業損害の算定においては、報酬額全額がそのまま算定の基礎とされるわけではありません。報酬全体のうち、役員が行った「労働」に対する対価がいくらであるかを認定し、その額を基礎として損害算定することになります。
これは、役員が受け取る報酬の中には、経営者として受領する利益配当的な部分があり、その部分は休業しても失われないため、損害算定の基礎から除外するという考え方によるものです。
この労働の対価部分がいくらであるかの認定は、会社の規模や当該役員の地位・職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額などを参考に判断するのが一般的です。
(2)会社の損害
役員が休業しているにもかかわらず、会社から以前と同じ報酬が支払われているということもあります。この場合には、役員に収入の減少はないのですから、休業損害は認められません。
他方で、会社としては、役員から労務提供を受けられなかったにもかかわらず、対価を支払ったわけですから、無駄な支出を余儀なくされたということで、会社として加害者に対し損害賠償請求することが可能です。
しかし、それを超えて、役員の休業によって会社の売上げの減少や損失の発生が起きたとしても、それを損害として加害者に賠償を請求することはできないのが原則です。ただし、企業規模が零細で、役員個人の行為が会社の活動と等しいようなケースでは、例外的に認められる場合もあります。
2014/2/17 弁護士鈴木哲郎
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)