不動産の相続、いま・むかし
2022年11月4日
不動産価格が年々釣り上がり、「土地」を持っていれば安泰、山奥の土地も「原野商法」(価値の低い山林を高値で売る詐欺的商法)の対象になり、土地を持つことがステータスであり、羨望の的であった時代も確かにありました。
ところが、今は相続した土地について、「利用する予定がないのに税金がかかる」、「土地の管理が必要だけど、負担が大きい」などの理由により、誰も管理せずに放置し、何度かの相続を経て所有者が分からなくなっている土地が、なんと九州と同じくらいの面積になっているそうです。
所有者の分からない土地をなくすため、令和6年4月1日からは不動産の相続登記が義務化されます。他方、土地を手放したいというニーズにも応え、令和5年4月27日から【相続土地国庫帰属制度】という新しい制度が始まることになりました。
【相続土地国庫帰属制度】は、相続などによって土地の所有権を取得した人が、法務大臣の承認を得て土地を手放し、国庫に帰属させる制度です。
しかし、承認までの要件は厳しく、たとえば、建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地などは申請が却下されますし、土地に勾配や高さのある崖があるなど、管理や処分に過分な費用がかかる土地は、承認を得ることができません。審査手数料と負担金も必要になります。
それでも売却の見込みのない土地を相続して管理することよりも手放したい、と考える人はどれくらいいるのか、今後、制度の意義が試されることになります。
所有者の分からない不動産が多くなると、再開発ができなかったり、災害時に土地が使えないなどの不利益があります。関連する民法などの改正も実施されており、所有者不明土地をなくそうという法務省の強い意思を感じます。
弁護士 山内益恵(名古屋北法律事務所)
(「年金者きた」へ寄稿した原稿を転機しています)