ホワイトカラーエグゼンプション
2007年1月4日
ホワイトカラーエグゼンプションとは
現在、厚生労働省の労働政策審議会(労政審)において、労働時間法制(労働時間に対して、いかなる法的な規制をするのか)についての検討を行っており、2006年12月27日にホワイトカラー・エグゼンプションは「導入を適当」とする報告書をまとめました。
ここで、論議されているものとして、「ホワイトカラーエグゼンプション」を導入するべきかどうかがあります。
ホワイトカラーエグゼンプションとは「ホワイトカラー労働者」に対して、労働時間の法的規制を適用免除「エグゼンプト(exempt)」する制度を言います。
この制度を適用される労働者に対しては、時間外労働時間の長短に関わらず、時間外手当などを支払うことが免除されます。
ホワイトカラーエグゼンプション導入が検討される背景とは
ホワイトカラーエグゼンプションは、日本経団連が2005年6月に導入を求める提言を行いました。経団連を始めとした、使用者側がホワイトカラーエグゼンプションを導入すべきであるとした根拠は、上記の試案によると、
(1)労働基準法で定める労働時間規制は、工場内の定形作業従事者に適合するが、「現在のホワイトカラーの就業実体には必ずしも合致しない。」
(2)「裁量性が高い業務を行い、労働時間の長さと成果が一般に比例しない頭脳労働に従事するようなホワイトカラーに対し、一律に工場労働をモデルとした労働時間規制を行うことは適切とはいえない。」
(3)「効率的で自らが納得できる働き方を選択し、心身ともに充実した状態で能力を十分に発揮することを望んでいる者も少なくな」く、現行の労働基準法では、主体的で柔軟な労働に十分資する内容にはなっていない、ことを挙げています。
その上で、上記の試案で、ホワイトカラーエグゼンプションに該当する適用対象者は以下の通りになります。(金額はあくまで例示としています)
・現行の専門業務型裁量労働制の対象業務従事者(新商品、新技術の研究開発等)
・法令で定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者
・労使委員会の決議により定めた業務で、月給制か年俸制、年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者
・労使協定により定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が700万円か全労働者の給与所得上位20%以上の者
ホワイトカラーエグゼンプションの問題点
経団連の報告書によると、いかにも労働者の労働実態と労働基準法が乖離している、自律的に働くことが労働者の要求にも合致するとしています。しかしながら、ホワイトカラーエグゼンプション導入には問題はないのでしょうか。
1 給料の減少
経団連の提唱したホワイトカラーエグゼンプションが導入された場合。適用対象となる労働者数は、約1013万人とされ、約全体で11.6兆円、労働者一人あたり年間114万円ものを人件費を削減することが出来るとしています(労働運動総合研究所http://www.yuiyuidori.net/soken/)。そのため、財界側が人件費削減を実現するために、ホワイトカラーエグゼンプション導入を求めていることは明らかと言えます。
また、現在全国でサービス残業に対して時間外手当などをきちんと支払うように求める運動が広まっていますが、ホワイトカラーエグゼンプション導入の際には、適用対象者は時間外手当を請求できなくなります。
2 自立的な労働を実現する必要性について
経団連が要求しているホワイトカラー労働者とは、自分で自律的に管理して、労働時間を調整できる労働者です。しかしながら、日本の労働環境において、自律的に労働時間を管理して労働をすることが出来る労働者はほとんどいないと言えます。例えば経団連の提言で想定しているのは、職場内で自分を除く全員が残業をしている状況下で自分だけ仕事を終わらせることが出来る労働者である必要があります。しかし、実際の職場の環境でそのようなことが出来るのかについて、実体に即した検討は行われていません。
経営者側の団体の中でも、経済同友会では、「しかし、仕事の裁量という点では、仕事の具体的な進め方(手順)について裁量を持つ従業員は多いが、何の仕事をするかという質、量やスケジュール(納期)にまで裁量のある者は多くはないのが現実である。」として、財界側団体であっても、比較的導入に慎重であると言えます。
3 過労死の助長につながる
ホワイトカラーエグゼンプションが導入された場合、長時間残業を原因とする過労死、過労自殺を助長する危険性があります。経団連が想定するホワイトカラー労働者は、労働時間を自立的に管理できることが前提となっており、過労死、過労自殺は労働者の自己管理の欠如とする主張がま仮と負ってしまう危険性があります。
法的には、時間外手当等を支払うべき義務が使用者になくなるだけであり、雇用契約に伴い、使用者は、労働者の健康に配慮する義務(安全配慮義務)は依然として残る以上、ホワイトカラーエグゼンプションが導入されたとしても、企業の健康管理などの責任がなくなるわけではありません。ただ、ホワイトカラーエグゼンプション対象者であることで、安全配慮義務の意味合いが弱められたり、職場内で、長時間労働を誘発する状況が作り出される危険性が高くなる危険性は極めて大きいと言えます。
今後の動き
2006年12月26日の労働政策審議会の提言を受け、ホワイトカラーエグゼンプションの導入が実現性を帯びてきました。しかしながら、労働組合、日本労働弁護団、過労死遺族の団体等は、ホワイトカラーエグゼンプション導入に反対の声を挙げています。
ホワイトカラーエグゼンプションの導入を防ぐには、労働者1人1人が、自分にも起こりうる問題だと認識する必要があると言えるでしょう。