いわゆる「私人逮捕」について
2024年1月5日
最近、ネットニュースや新聞などで「私人逮捕」という言葉を目にすることがあります。そういったことを繰り返して再生回数を稼ごうとするいわゆる「迷惑系YouTuber」の一種ですね。
さて、「逮捕」というのは、人の身体を拘束して行動の自由を奪うことですので、基本的には人権侵害行為であり、逮捕罪という犯罪行為になり得ます。さらに場合によっては暴行罪や傷害罪も伴う危険性があります。
そのため、通常警察官が逮捕する場合には、裁判所に対して、犯罪を実行したことを疑うに足りるだけの相当の理由を示して、逮捕状の発布(はっぷ)を請求します。その意味で厳格な手続きのもとでのみ逮捕が許されるのが原則です。
ところがこれに対する例外として、刑事訴訟法は現行犯逮捕という制度を設けています。現に罪を行っている、または現に罪を行い終わった場面で、裁判所の発行する逮捕状を取得する時間的余裕がない場合には、例外的に逮捕状がなくても、逮捕という身体拘束、人権侵害行為が許される、というものです。
さらにこれを警察官だけではなく、一般市民にまで広げたものが、いわゆる「私人逮捕」と呼ばれているものです。刑事訴訟法第213条に「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」とされているのがそれです。これは現に犯罪行為が行われているのを目の前にしても、警察が来るまで待たなければならないとすると、犯人に逃げられてしまうことがあるためです。
ただ私人逮捕には制限があり、罰金30万円以下のような軽微な犯罪行為の場合には私人による現行犯逮捕は、「犯人に逃亡のおそれがある場合」など、さらに要件が厳格になっています。むやみやたらに私人逮捕をしようとすると、場合によっては暴行罪、逮捕罪が成立したり、あるいは公衆の面前で犯罪者扱いしたということで名誉毀損罪になったりします。
そうでなくても逮捕術を訓練していない素人が警察の真似事をするようなことは、大きな身の危険を伴う行為ですので、滅多なことではやらない方が良いと思います。
弁護士 伊藤勤也(名古屋北法律事務所)
(「年金者きた」へ寄稿した原稿を転機しています)