「家族信託」について
2018年12月26日
1 「家族信託」は、ご本人(Aさん)が、信頼できる家族(Bさん)との間で、信託契約を結んで、自分の財産や権利の管理を家族に託す制度です。
たとえば、アパート経営をしている高齢のAさんが自分名義の建物を、信託目的で息子のBさん名義にして管理を委託し、回収した家賃はAさんが受け取る、という信託契約をしたとしましょう。そうすると、もしAさんが認知症になるなどして自分自身の判断で契約することができなくなってしまっても、Bさんは自分の名前でアパートの修繕をしたり、新しい借手との入居契約をすることができ、Aさんは継続的に家賃を受け取ることができます。Aさんは、自分が死んだ後に財産の処分についてもBさんに委託しておくこともできるのです。
2 ご本人の財産を守ることが重要な成年後見人に比べて、「家族信託」は財産の組み換えや運用、売却など、積極的かつ柔軟な財産管理ができる可能性があります。
しかし成年後見制度と違って家庭裁判所等の監督はありませんから、信頼して任せた家族が、ご本人を裏切るような行為をしたときには、その傷手は大きいかもしれません(もちろん、契約違反で訴えることはできます)。もし誰か一人に任せるのが不安であれば、別の親族や外部の専門家を「信託監督人」としてお目付役をおくこともできます。
3 「家族信託」は、ご本人に信託契約する能力があるときでなければ使うことができません。つまり自分が認知症になどで判断能力が低下する前に、ご家族に自分の財産を託さなければなりません。ですから「家族信託」を行う場合には、ご本人の老後の生活について、家族の間で十分話し合い、どのような財産を、何のために、誰に託すのか、その方法をどうするかを決める必要があります。
この話し合いが、ご本人の老後をご家族みんなで支えようという意識に繋がることが期待されます。また、ご本人の亡くなった後の相続がどうなるかをご家族の方で予測することができますから、無駄な骨肉の争いが減ることにもなりそうです。
4 ただ、どのような委託契約を、誰との間でするのかは、ご家族のニーズによって異なります。せっかくBさんと委託契約をしたのに、BさんがAさんより先に亡くなってしまったなどのリスクもあります。いろいろな可能性に目配りをするためには、専門家とよく相談しながら制度設計をしていく必要があるでしょう。
2018年12月26日
弁護士 山 内 益 恵