読書のしおり(5)ジーン・アウル「エイラ―地上の旅人」
2013年9月13日
これは、大人向けに書かれた作品である。原作に忠実に翻訳された集英社版と青少年向けに不適切と思われる一部表現を削除して発行された評論社版がある。集英社版は、きわどい場面が多々あるので、20歳の息子には紹介できないが、こちらの方がお勧め。この作品は、1980年にアメリカで発行されて以来まだ完結していないが、29カ国語で3500万部発売されて世界的なロングセラーとなっている。
クロマニョン人(クロマニョンじん、Cro-Magnon man)とは、南フランスで発見された人類化石に付けられた名称である。ヨーロッパにおける化石現生人類をひろくクロマニョン人と言うこともある。またネアンデルタール人を旧人と呼ぶのに対しクロマニョン人に代表される現代型ホモ・サピエンスを新人と呼ぶこともある。
同時期に同じ場所に2つの種族が共存していた氷河期の終わり、滅びゆく旧人ネアンデルタールと現代人へとつながる未来を持つ新人クロマニオン(ママ)との軋轢を背景に黒海のほとりからフランス・スペインの国境あたりまで大陸を旅する壮大なスケールの物語である。
今から3万5千年前頃、氷河期の終わり、大地震で家族を亡くし、孤児となったクロマニオン人の幼女5歳のエイラは、ネアンデルタール人の一族に拾われ、育てられる。彼らの目から見れば醜い異形の子であり、エイラが成長し、身体的特徴や個性が顕著になるにつれて、一族の中で反感や嫌悪が大きくなる。エイラの後ろ盾となり、育ててくれたイーザとクレブが亡くなると、族長の息子プラウドのエイラへの反感と暴力は激しくなる。そのプラウドとの間に混血の子ダルクも生まれるが、ついに決定的な破局を迎え、最愛の息子ダルクを残していくことになる。心を引き裂かれながらも、一族と住むことを許されず、自分と同じ種族を求めて旅に出ることを決意する。ここまでが第1部。第2部以降でエイラは自分と同じ種族の愛する人を見つけ、その人ジョンダラーの故郷へ旅をする。
クロマニオン(ママ)人は、ネアンデルタール人を獣として同じ人間とみなさない。それでもエイラは、彼らがどう思おうと自分を育ててくれたのはネアンデルタール人であること、そして自分がネアンデルタール人の子供を産んだことを隠さない。自分に正直に生き、自分の知恵と体力と薬師としてのわざで周りの人々、自分をさげすむ人々を助けるエイラの強さに驚嘆する。
この本は1980年に発行され第5部が2002年であり、第6部の構成となっている。著者は1936年生まれ。完結するのか心配である。
第1部は文句なく傑作である。旧石器時代のネアンデルタール人の身振りと言語、宗教儀式、狩り、道具作りなどエイラと共に見て学び、苦しみ悩み、一緒に生きている不思議な感覚である。図書館でも第1部はよく貸しだされている。第3部までは一息に読めるおもしろさがある。しかし第5部は著者自身悩みながら書いているのか、行きつ戻りつという感じで読むのが疲れる。第6部に期待しよう。
2013/09 /13 長谷川弘子