「会社経営に関わるリスクと対応」 2010年9月24日 ホウネット経営塾レポート
2010年10月4日
9月24日、ホウネット経営塾は第5回目の講義を開催。特定社会保険労務士の八橋昭郎さんを講師にお招きし、「会社運営に関わるリスクと対応」という題でお話しいただきました。
(「特定社会保険労務士」の“特定”は、労働者と使用者の間で起きた個別紛争のあっせんの代理人になれる資格を持っているという意味だそうです)
自己紹介では、中小企業の労務管理をお手伝いする業務などを行っていることと合わせて、1994年に過労死裁判の支援に関わる中で長谷川弁護士と出会ったことが語られ、中小企業経営者にも労働者にも温かい目線で接しておられる人柄が垣間見えました。
講義の中でまず強調されたのは「会社にはどんな規則・規程が必要か」という点です。就業規則は職場の規範となるべきものであり、職場運営の基準であるから、より緻密、より具体的に。そして、職場の行動基準であり、職員の教育ツールであるという指摘もなされました。また、労使紛争などのトラブルを防止するものであり、きちんとした規則や規程はトラブルが起こったときも会社を守るものであるとのこと。企業のコンプライアンスに社会が注目するようになっている中、一定の社会的ルールが守られていない企業は競争入札等にも参加できないことなども紹介されました。
「労務管理上注意すべき点は何か」というポイントでは、残業などに対する割増賃金の計算における考え方、タイムカードと労働時間管理の重要性、役職手当支給の際の注意点などが語られました。採用した従業員をきちんと育てたり、何らかのトラブルが発生することを避けるため、色々な段階できちんと合意を交わすことや、手続きを透明で明確なものにしておく必要性も指摘されました。
いくつか例をあげます。
「採用時には試験を行う」「健康診断記録の提出」etc.−これは、職務経歴書に書かれていることを信じて雇用したが、実際にはその記述に見合ったスキルがなかったとか、うつ病になっていたり、極度に視力が悪いなどの原因で通常業務に支障があることが雇ってから判明した−などということを防ぐために、必ず実施するように。
「雇用契約書の締結」−多くの企業では、契約書ではなく「労働条件通知書」を労働者に渡すのみになっていますが、それだと「会社側が一方的に通知したのみ」の状態になっています。そうではなく、労働者と使用者とで「契約書」を取り交わすのであれば、双方が合意をしたということが書面上で確認できます。
「配置転換・異動の可能性、業務内容の詳細な明示」−雇用してから、業務に関わる何らかの変更の必要性が生じた場合、『そんなこと約束していない』と言われないためにも、業務上想定されるものは全てきちんと書面で示しておくことが必要です。
「試用期間の設定、教育指導の明示、やむない解雇についての取り決め」
「懲戒事由と懲戒の種類、決定の手続きの取り決め」
「解雇、雇い止めに関する事由」
・・・と、紹介したいことはたくさんありますが、文章が長くなってしまうので、最後の方はポイントを列記するだけにしておきます。
八橋さんは「会計監査」という言葉は耳馴染みがあるが、「労務監査」という考え方があるということも紹介してくれました。大事な考え方、視点だと思います。
こう書いてくると、「労働者をいかに管理し、いかにトラブルを未然に防ぐか」というところに力点が置かれているかのように受け止められるかもしれませんが、実際にはそうではありません。八橋さんが最も強調されたのは、経営者は、採用から始まって色々な段階で労働者の立場に関する決定をするが、どの決定においても、そこに至るまでの労働者との関係が大事である、どのような過程を積み上げてきているかが大事である、ということです。私は一労働者の立場で講義を聞きましたが、中小企業の労働者として、自分も社内規程などについて積極的に提案したり、たとえ何らか未整備の規程があったとしても、労働者と経営者が協力してお互い発展していけるような環境を作っていくことが大事で、それに向かう話し合いができる関係、そんな場を作っていくことが大事なんだと改めて気付かされ、背筋が伸びる思いでした。
講義のあとの質疑応答では、経営者の方々からたくさんの質問や悩みが出されました。多かったのは、試用期間の設定とその後の解雇についての問題です。「人は雇いたいと思っているが、ミスマッチが怖い。今までも何度か経験してきた」という切実な声が印象的でした。これについて、八橋さんは「試用期間に行う教育がきちんとしているかどうかと、本人の能力をどう評価するのかが大事だ」と解説。時間ギリギリまで熱心に話し込む塾生さんたちの姿を見て、厳しい経営環境の中でも頑張る経営者の方たちと協同し、自分も働き続けていきたいと思いました。
2010年9月27日
事務局K