原発避難訴訟、初の最高裁判決によせて
2022年8月16日
福島原発事故の避難者らが国の国家賠償責任を追求した訴訟で、2022年6月17日、初の最高裁判決(最高裁第二小法廷)がなされました。この裁判で、避難者側は、原発事故が「万が一にも起こらないようにするため」には、国は、津波地震を予測した政府機関の長期評価(2002年)を安全規制に取り入れ、東電に対し、防潮堤だけでなく、水密扉の設置(水密化)などの万全な津波対策を講じさせなければならなかったと主張していました。
これに対し、最高裁は、長期評価と実際の地震の規模の違いなどから、防潮堤が建てられたとしても事故は避けられなかったとして国の責任を認めませんでした。水密化については、3・11前に一般的でなかったことを理由に事故防止策として取り入れられる蓋然性は低かったとしています。想定を上回る津波の予見可能性については、判断すらしませんでした。
一方で、この判決には、国の責任を認めるべきだとする三浦守裁判官の30ページ(多数意見の約3倍!)にも及ぶ緻密な反対意見が付されています。
三浦裁判官は、大津波の予見可能性について、「予測困難な自然現象で、安全上の余裕を考慮した想定が必要だ」と多数意見に反論、国が東電に電気事業法に基づく技術基準適合命令を発していれば、東電は速やかに適切な防潮堤を設置していた可能性が高い、防潮堤の完成前に地震が起こった場合の事故防止のため、水密化措置も講じられていた可能性が高く、事故を回避できた、としたのです。三浦裁判官は「安全性が確保されなければ数多くの生命や生活基盤に取り返しのつかない被害を及ぼす。極めてまれな災害も未然に防止するため、(国の権限は)適切に行使されるべきだ」とも言っています。
私は、住民の生命を貴ぶ三浦意見こそ、基本的人権を保障した憲法の番人である最高裁にふさわしいと考えます。今後、第一小法廷、第三小法廷で判決がされることがあれば、このような意見が多数意見となることを切に願います。
弁護士 裵明玉(名古屋北法律事務所)
(「年金者きた」へ寄稿した原稿を転機しています)