少年事件の実名報道
2022年5月16日
1 「週刊新潮」による少年事件の実名報道
山梨県甲府市で住宅が放火され全焼し夫婦が死亡した事件に関して、2021年10月21日発売の「週刊新潮」が、被疑者とされる19歳の少年の実名、顔写真を掲載しました。記事では、少年の生い立ちや通っていた学校などについても触れられています。
これは、少年の氏名、年齢、容ぼうなど本人と推知できるような記事又は写真の報道(「推知報道」)を禁止した少年法61条に反するもので、決して許されません。
2 少年法61条違反
少年法は、成長途上にあって将来のある少年について、たとえ大きな過ちがあったときも、健全な成長を援助することを通じて(1条)、犯罪の繰り返しを防ぐことを基本理念としています。
重大な少年非行の背景には、大人たちの不適切な扱いや不良な環境によって、健全な成長を妨げられ、適切な人間関係を形成できなかった現実が少なからずあります。
少年法61条は、少年が犯した過ちの公表、暴露によって、その人格が否定されることがない社会環境においてこそ、少年法の精神が活かされ、少年の更生も可能になるという認識に基づき、推知報道を禁止しています。
2021年5月21日に成立した改正少年法(2022年4月1日施行)においては、18歳及び19歳のときに罪を犯した場合において推知報道禁止が一部解除されました。しかし、それはあくまでも検察官送致決定を経て起訴された後に限定されていて、今回のような捜査段階の推知報道は改正少年法下であってもなお違法であることは明らかです。
3 報道機関の求められる少年法61条の順守
報道の自由は憲法が保障する重要な権利ですが、実名や顔写真の掲載が社会の正当な関心に応えるというものではありません。
違法な推知報道は繰り返されてきていますが、少年及びその家族と社会との関係を分断しかねません。報道機関には、少年法の理念を順守した少年事件の報道に取り組むことが求められます。
弁護士 篠原宏二(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)