裁量労働制の問題
2018年4月27日
(以下は2018年3月1日に執筆したものです。その後、報道や市民運動の高まりにより、政府は裁量労働制を拡大する案を撤回するに追い込まれました。)
現在国会では、働き方改革関連法案が審理をされています。この働き方改革関連法案の中には労働基準法で規定されている裁量労働制を拡大しようという法案を含んでいます。裁量労働制とは一体どんなものでしょうか。
裁量労働制とは、一定の労働者の仕事のやり方に裁量が認められる労働について、労働者は実際の労働時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなされる制度です。この制度が適用されると、例えば6時間で仕事を終える事が出来た場合でも、10時間かかったとしても8時間働いたとみなされるようになります。ただ、仕事のやり方に裁量があったとしても、仕事の量についてまで裁量があるわけではなく、長時間労働の温床になってしまっています。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、裁量労働制の労働者は一般の労働者よりも長時間労働の割合が高いとの調査結果がまとめられています。そのため、裁量労働制の対象を拡大をするのは長時間労働を抑制しようということとは正反対のものなのです。
働き方改革関連法案では、この裁量労働制に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を含ませようとしています。前者は、例えば、取引先のニーズを聴取し、ニーズに応じた商品開発に等に携わり、商品を販売する業務が含まれますが、多くの営業職がこれに含まれます。後者のPDCAとは、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」の事を言いますが、一般的な管理職と呼ばれる労働者は多かれ少なかれ、PDCAを行っていますので、多くの管理職労働者が対象に含まれかねません。
この点についての国会審議では、首相は、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁しましたが、この答弁の出所である「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」からはそのような結論を導くことができないことが明らかになり、首相は答弁の撤回に追い込まれました。また、政府が法案の根拠としていた調査結果にも異常値が多数発見されたことも明らかになりました。この法案、特に裁量労働制の拡大は3年ほど前から議論をされてきましたが、前提となったデータが誤った以上、もう一度議論をやり直すべきでしょう。
弁護士 白川秀之(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)