最近の労災事件の現場から ~移動式クレーンのワイヤ破断による労災死亡事件
2017年11月1日
最近の労災事件の現場から
~移動式クレーンのワイヤ破断による労災死亡事件
Nさん(26歳)は、工作機械を製造する三重県四日市市の工場で交替制勤務で働いていました。保育士の奥さんとの間には3歳の女の子、生後半年の赤ちゃんがいました。
2015年4月、工場内で移動式クレーン(釣り下げ限界荷重14トン)に重量6トンの金型を吊り下げていたところ、同クレーンのワイヤロープが切れて金型が落下し、金型がNさんを直撃。下敷きになったNさんは病院に救急搬送されましたが、間もなく亡くなりました。
同事故について、私は被災者のご遺族から会社に対する損害賠償請求の依頼を受け、名古屋地方裁判所に民事訴訟を提起。平成28年11月、会社との間で和解が成立し解決しました。会社側は、和解の中でワイヤロープを構成する素線が劣化してロープの破断をもたらしたという原告側の主張を認め、労災補償給付とは別に損害賠償を行いました。さらに、会社の本社工場に遺族を招き、代表取締役社長が謝罪するとともに、事故現場で黙祷を捧げ、安全管理担当者が事故再発防止のために講じるべき措置等について説明を行いました。
幼いお子さんを持つ労働者の死亡労災事件を担当し、残されたご遺族の苦しみに直面するとき、いつも思うのは、必要な措置を講じれば事故を未然に防止することができたのに、なぜそれを死亡事故が発生するまでできないのかということです。この事案では、死亡事故後、会社はワイヤロープの劣化を検査する精密な機械を導入しました。未然にワイヤロープの経年劣化、素線の破断等をチェックできるこの装置はきわめて高額なものであり、労働安全衛生法で義務づけられたものではなかったこともあって、事故当時は導入されていませんでした。しかし、人間の命はかけがえのないものです。労働者の命が利益追求の陰で犠牲となっていないか。労働安全衛生法規は、労働者の命と安全を守るものとなりえているか。弁護士としてこのことを今後も問い続けていきたいと思います。同時に、労働現場のあり方の変革が必要であることを痛感します。会社主導の安全衛生委員会等による労働安全衛生向上の取り組みも必要ですが、下からのチェックも不可欠ではないかと思います。
私が弁護士として労働者の命と安全を守るために労災事件に関わろうと決めた原点に、北炭夕張炭鉱のガス突出事故がありました(1981年、死者93名)。炭鉱事故が多発した60年代、炭鉱労働者は、「安全なくして労働なし 抵抗なくして安全なし」をスローガンに闘いました。これは今でも変わらない真理であるように思います。現場での労働者、労働組合の抵抗、たたかいが求められているのではないでしょうか。
2017年11月
弁護士 長谷川一裕