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事務所だより

~15周年特集 金融ADRを利用した事例~

2016年3月23日

(1)為替デリバティブ取引
 平成16年頃、メガバンクや地銀は、主として貿易業務を行っている企業を対象として、積極的に「為替デリバティブ」取引を売り込みました。
 この取引はもともと、為替変動による損失リスクをヘッジ(回避)するための手段として用いられるものでしたが、当時の銀行は、純粋な投機のための金融商品として、貿易と関わりのない企業に対してまで、この取引を勧誘していました。
 私たちが担当した案件でも、銀行の担当者は「〇〇社さんに儲けさせてあげる。今のドルのレートが続けば毎月30万円入ってくる」という触れ込みで、小さな会社に為替デリバティブ取引を持ちかけていました。
 この取引の恐ろしいところは、為替の変動次第で、損失が無限に拡大していくことです。さらに、損失が出たからと言って、途中で解約することは原則としてできません。

(2)金融ADRの利用
 先ほどの会社は、当事務所に相談に来られた時点で、すでに1億円以上の損失を出していました。
 当時は、極端な円高傾向が続いており、このまま行けば損失はさらに拡大していく一方であることが明らかだったため、早急な対処の必要がありました。
 そこで、損害の賠償を求める通常の裁判ではなく、「金融ADR」の利用を選択しました。
 この制度は、裁判のような強制力はありませんが、金融機関との間のトラブルに関し、金融分野に知見のあるADR委員の下、迅速かつ柔軟な解決が期待できるメリットがありました。
 私を含めた当事務所の「中小企業チーム」3名の弁護士が直ちに着手し、ADRの申立を行いました。

(3)解決
 担当のADR委員は、こちらが提出した資料から、今回の取引に問題があったことを理解し、相手方銀行に過失を認めるよう説得に当たりました。
 その上で、通常はできない中途解約を、こちらに有利な条件で認める内容の和解が成立することになりました。申立てから4か月程度という、裁判では考えられないスピードでの解決となりました。
 金融商品は、日々新しいものが生まれ続けています。そうした商品について、十分な知識を持っていない会社を守るための中小企業法務の重要性を認識した事件でした。

弁護士 鈴木哲郎

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