有縁社会をめざして(1) №120
2011年5月18日
5月14日(土)に「有縁づくり学習会 安心して暮らせる暖かい街に」(講師は特定非営利法人『権利擁護支援ぷらっとほーむ』の篠田忠昭理事長)を北医療生活協同組合の「わいわいルーム」を会場に開催したところ、地域の民生委員、医療施設、福祉施設関係者、ボランティア活動を志している方々等、約40名が参加されました。
事務所設立10周年の今年、北法律事務所は、「つながる未来へ」を統一スローガンに、鎌田實さん講演会、暮らしに役立つ「つながりマップ」作成、暮らしを支える相談センター結成等の一連の事業を進めていますが、同学習会もその一貫として行ったものです。
学習会のテーマのキーワードは、「有縁社会」と「地域のつながり」です。昨年は「無縁社会」が流行語の一つになりました。長寿社会と言われる陰で、少なくない100歳以上の高齢者が実は死亡されていたというニュースは、孤立、貧困を深める日本社会の暗部を照らし出して余りあるものでした。
篠田さんは、講演の冒頭、日本の社会に深刻な構造変化が起こっていることをわかりやすく話されました。高齢化、核家族化の進行のもとで、名古屋市では、65歳以上の高齢者が47万人、後期高齢者と言われる方が21万5700名、そのうち75000名が一人暮らしとのことです。認知症を患う高齢者も増加しています。障害をお持ちの方は、約11万人。認知症や知的障害を持つ方々に対する悪徳商法の被害(私が最近相談を受けた方は、統合失調症と知的障害をお持ちの方でしたが、知人に騙されて次々とカードを作らされ、次々とキャッシング、ショッピングで利用され、自己破産に追い込まれました)、高齢者に対する虐待の増加(食事を与えない、「いつまで惚けとるんだ!死んでしまえ!」といった言葉による虐待や食事を与えないといった虐待も含む。篠田さんによれば、介護する側も失業や不況で苦しんでストレスを溜め込んでいるという場合が多いとのことです)等。
こうした状況の中で、ぷらっとほーむが取り組んでいる活動を紹介されました。
講師の篠田さんが理事長を務める「ぷらっとほーむ」は、一人暮らしで身寄りのないお年寄りのための身元保証、見守り活動、財産管理、死後の葬儀支援等の業務を行っています。身寄りのない高齢者が入院したり賃貸アパートに入居したりする際、身元保証人が確保できず困ることが多いのですが、ぷらっとほーむが身元保証人になります。
また、定期的に自宅や入院先を訪問して見守り活動を行います。入院したり施設に入所すると、自室に持ち込める荷物は限られます。そこでぷらっとほーむは、先祖さんの仏壇や位牌、アルバム等、その方が大切にしている物を預かっています。また、その方の希望に沿った死後の整理、葬儀の手配等をサポートします。
篠田さんは、30年間の民生委員の活動を通じて、いかに一人暮らしの高齢者が貧困と孤立の中で苦しんでいるか、どんな境遇にあるかを思い知られたそうです。また、行政の硬直した対応に失望し、市民自体が横につながって地域の高齢者を支えていかなければならないと思い定め、6年前にぷらっとほーむを立ち上げました。今では、名古屋市内を中心に約220名の高齢者の権利擁護支援を行っています。
有縁社会をめざして
ぷらっとほーむの特徴はいくつかありますが、何よりもお金がない方、低所得者の方々の目線で活動していることです。こうした権利擁護支援活動を行っているNPO法人は名古屋市内にも複数あります。私たちもいろいろ研究しましたが、入会時に20万円ものお金を納めなければ入会できないといったところが多く、中には営利主義の色彩を感じさせる法人もあります。もちろん、事業が持続するためには、「福祉分野では無償のサービス提供こそ善だ」といった精神論では済まされず、ある程度の事業性を求めることは当然です。しかし、20万も30万も用意しなければサービスを受けられないというのでは権利救済を受けられない高齢者が増えてしまいます。
ぷらっとほーむは、入会金は5000円、年会費は2400円です。この外に受給するサービスによって料金はかかります。金融機関に行っての預金引き出し等の金銭管理は、一時間1500円、身元保証は月額2500円といった具合です。他のNPO法人と比べ格段の安さです。
篠田さんによれば、数十名のボランティアの方々が日夜、活動に従事しているそうです。ぷらっとほーむでは、会員さんが危篤に陥ったり死去された時、一時間以内に現場に駆けつけることをモットーにしています。葬儀会社と提携し、遺体の搬送等の措置をその日に行うようにしています。このような迅速な対応を取るために、ボランティアの方々が大変な苦労をされていることは容易に想像できることです。ぷらっとほーむでは、こうしたボランティアの方々に交通費と時給を支払っていますが、とても労力に見合うものではありません。そして、聞いたところでは(篠田さんは自分ではお話しされませんが)、篠田さん自身、最近まで全く無報酬で活動に従事しておられたようです。
篠田さんは、ぷらっとほーむのような活動にとって大切なことは、関連機関や専門機関との協働であると述べました。地域には、区役所、地域いきいき支援センター、保健所、地域障害者支援センター、病院、警察、高齢者虐待センター、成年後見あんしんセンター等の関連機関があり、これらとのネットワークを日常的に強めておくことが不可欠であることを強調されました。
篠田さんは、最後に次のように講演を結ばれました。
「たった一人では何もできない。けれども誰かが始めなければ何も進まない。あなたは、その誰かになってください」
名古屋北法律事務所では、昨年来、北区地域で何とかぷらっとほーむのようなNPO法人を設立し、高齢者の権利擁護活動を組織できないか、模索してきました。篠田さんとも、その模索の過程で知り合いました。論議を重ねた結果、中心となって活動をコーディネートする人材の発掘、ケースワーカーや社会福祉士等、医療福祉関係者とのネットワークが未構築であること等の事情を考慮し、現時点では時期尚早と判断せざるを得ませんでした。やはり一法律事務所がやれる課題ではなかったということです。
しかし、私たちはこの活動分野への参画をあきらめるつもりはありません。人権擁護を使命とする弁護士たちが、高齢化社会のもとで進行するこの人権問題を座視すべきではないと考えるからです。
差しあたり、北法律事務所は、今年の遅くない時期に、「くらし支える相談センター」を開設することになりました。既に事務所のある第5水光ビルの7階の一室を確保しました。法律だけでなく、税金、年金、雇用、生活保護、教育、医療、介護、高齢者支援等、暮らしに関することなら何でも相談できる、ワンストップサービスのような相談ポイントをめざしています。この相談センターのような活動が広がり、地域でのネットワークが広がっていけば、いずれの日にか名古屋北部地域でもぷらっとほーむのような高齢者の権利擁護事業を行う主体の構築が日程に登ると信じたいのです。