コナン君の裁判員制度問答No.1 豆電球No.58
2008年6月12日
コナン君の裁判員制度問答No.1
コナン 久しぶりだね、長谷川先生。元気でやっとりゃーすかね。今日は、法律相談じゃなく、アンタに聞きたいことがあってきた。来年から導入される裁判員制度だについて聞きに来たんだわ。
今日は、そりを聞きに来たんだわ。
長谷川 先生はやめてくれ。北法律事務所では、事務員もできるだけ弁護士を先生と言わず、さんづけだ。
事務所のホームページの私のコラム「豆電球」で西野喜一裁判官の「裁判員制度の正体」という本を批判する文章を掲載したでしょ。読んでくれなかったんですか。
コナン あんなの難しすぎてわからん。もっとわかりやすく説明してちょーすか。
長谷川 わかりました。今日は、できるだけ、できるだけですよ、わかりやすく私の考えを述べることにします。
コナン 国民の中には「裁判員なんてやりたくない」という意見が多いというじゃないか。
国民が嫌がることはやめたらどうだ。それが民主主義っていうもんではないのか。
長谷川 弁護士の家族でもそういう意見が強い。我が家も同じだ。
昨年、私は町内会の副会長の順番が回ってきて一年間、大変だった。今年は、妻がPTAの役員を引き受けることになったが、嫌々引き受けたようだ。でも、町内会もPTAも、やってみるといいことがあるね。ご町内のことがよくわかったよ。
裁判員制度も、国民に新しい負担と協力を求めるものだ。「出たくない」という意見が多いのは驚くにはあたらない。
民主主義っていうけど、国会では全会派の賛成で導入されたんだ。それはおくとしても、多数に迎合するだけが民主主義ってもんでもないだろうよ。
ただ、国民の理解を得るための広報活動が十分ではないという問題はある。上戸彩のポスターだけではだめだ。でも、制度を実施に移し、国民が実体験を重ねていく上で理解が広がるというプロセスになると思うよ。
コナン だいたい、裁判員制度を導入してくれ、という世論かあったのか。何となく唐突で押しつけのような感じがするんだけどな。
長谷川 コナン君のような若い世代なら無理もないかもしれない。でも、刑事裁判への国民の参加というのは、日本の民主主義的運動の中で悲願の一つだったんだよ。例えば日弁連は刑事裁判への陪審制の導入を求め続けてきたし、進歩的な弁護士集団の自由法曹団だってそうだ。
裁判員制度は、決して政府の押しつけではない。
平成11年に司法制度改革審議会が設置され、法曹養成制度、刑事司法、民事司法等の改革について審議され、日弁連もこれに参画した。それまでは、司法に 関する政策立案は法曹関係者を中心に行われていたんだが、同審議会は法曹界意外のメンバーが過半数を占めた。ユーザーであり主権者である国民の意見を踏ま えた改革にするためだ。この審議会で裁判員制度の導入が決められ、実施に移されたんだ。審議会の審議内容はオープンに行われ、国民から様々な意見が寄せら れた。
裁判所や検察の中には、刑事裁判に対する国民参加には根強い反対もあったが、審議の末、導入が決まったんだ。
コナン へー。そうなんだ。友人には、裁判員制度の導入は、治安を強化するための陰謀だという人もいるけど。
長谷川 法律家の中にも、今の社会は格差と社会が広がり、犯 罪が増加する→それを刑罰の力で押さえつけ、治安を守る必要がある→そのためには国民を「処罰する側」に立たせる必要がある→だから裁判員制度を導入す る、という見方があるよ。徴兵制導入と発想を同じくするという意見まである。なるほど穿った見方だが、穿ちすぎて突き抜けてしまっている。想像力を逞しく するのもいいが、事実に基づいた議論をしたいものだね。