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事務所だより

EUと日本ー地球温暖化対策をめぐって 豆電球No.54

2008年5月1日

EUと対照的な日本の温暖化対策の立ち遅れ

名古屋の地下鉄に、小雪がイメージガールになっている、「エコキュート」という、空気の温度で給湯するシステムのつり革広告がぶらさがっている(今の地下鉄の広告では、蒼井優のキャノンの広告が一番ですが)。
小雪の話ではなく、地球温暖化問題の話。4月26日に行われた地球温暖化問題のシンポジウム(日本共産党弁護士後援会主催)に参加し、「えっ、そんなに温暖化問題は深刻なんだ!」と認識を新たにした。

講師は、「地球環境と大気汚染を考える全国市民会議」(CASA)代表でバリ会議にも参加した早川光俊弁護士、日本共産党中央委員会政策委員会で環境問 題を担当し、3月に同党がヨーロッパの温暖化対策の取り組みを調査するために派遣した調査団として渡欧していた佐藤洋氏である。
早川弁護士は、パワーポイントを用いて、加速する温暖化の現状とその原因、米欧日等の先進諸国の責任の大きさ等について、非常にわかりやすく説明された。
産業革命が拡がった1850年、二酸化炭素等の温暖化ガスの排出量の増加、その中での地球の温暖化は、今や明確な科学的に証明された事実である。少し前 までは、温暖化の原因を地球文明の産業化、工業化による温暖化ガスに求めることに科学的根拠はないと言う学者も結構いたが、今では姿を消している。
早川弁護士の報告から借用して、少しデータを紹介する。温暖化問題に詳しくない私にとっては、驚くべきデータばかりであった。
・最近95年から06年のうち11年は、1850年以降で最も温暖な12年に入る
・過去150年で0.74度上昇し、最近50年の温暖化傾向は過去100年の約2倍に
・大気中のCO2濃度は05年には379ppm
過去65万年の平均は180−330ppm
・北極では、この30年で日本の面積8.5個分の面積が減少
・過去50年で桜の開花は4日速まり、紅葉は2週間遅くなった
早川弁護士によれば、気温上昇幅を工業化される前(1850年時点)から2度以内に抑えなければ、植物及び動物の2割から3割が絶滅のリスクを負い、数 億人規模の水不足、広範囲に及ぶサンゴの白化、感染症の拡散等、地球環境に破滅的影響を与える危険性が高まる。従って、どうしても二度以内に抑えなければ ならない。
そして、イギリスのスターンレビュー(世界銀行副頭取もつとめたスターン氏が中心となってイギリス政府がまとめた報告書)によれば、これからの10年か ら20年が決定的に重要であり、温暖化の負荷は、このまま行けば世界GDPの5−20%に相当する可能性があるが、今から安定化のために着手するとコスト は1%以内に抑えられるという(なお、この点については、「世界」5月号に関連論文が収録されており、参考になる)。
今後の対策では、「共通だか差異ある責任」が重要であり、原因を作った先進諸国と途上国の責任は差異があって当然であり、その点では、日本政府の取り組みは決定的に立ち後れているという。
佐藤洋さんの報告は、欧州調査団の成果を踏まえたものであり、イギリス、ドイツでの温暖化対策と対比して日本の対策がいかに遅れているかを浮き彫りにするものであった。
イギリス政府は、50以上の産業部門毎に気候変動協定(温暖化ガス排出量に関する協定)を締結し、これには6000企業が参加している。ドイツでも、 2000年に政府と19の産業団体の間で協定が締結され、2012年までにCO2を21%削減することになっているという。EUの基本文書では、温暖化阻 止による地球環境保全のための「新しい産業革命」が必要であるという共通認識に基づき、緊迫感を持った取り組みが強化されているそうだ。
京都議定書履行期間(08年〜12年の5年間。日本は90年比6%削減)以後の温暖化ガス排出量の総量規制に関する数値目標すら未だに決めようとせず、 業界の自主努力に待つという基本姿勢から脱却しようとしない日本政府のアナクロニズムとは対称的である(日本は、バリ会議では、温暖化対策が遅れた国に与 えられる「地球の化石」賞という栄誉ある賞を環境NGOから受賞し、これが閣議でも話題になったそうである)。
佐藤さんは、家庭も排出源だが排出量は20%に過ぎず、何と行っても民間企業、特に電力、鉄鋼、製造業等の産業界に対策を取らせるための政府のイニシア ティブが必要であることを強調し、大企業応援の自民党政治では抜本的対策は期待できないと与党を批判するとともに、グローバル化した資本主義経済が生産力 を統御できず、存立の基盤である地球環境そのものの脅威を生み出したと言う点で「市場経済(資本主義経済)の壮大な失敗の結果」という側面を持つことを強 調した。
それにしても、風力発電、太陽光発電等、ドイツの再生エネルギーの取り組みは、刮目すべきものだ。ドイツでは、これらが重要な産業分野となり、大きな雇 用を生み出すに至っているという。再生エネルギー普及の決め手は、何と行っても、固定価格買い取り制度の導入であるらしい。ドイツでは、風力発電は 2200万キロワット、これに対して日本はまだ140万キロワット、中国は350万キロワット。ドイツでは、再生エネルギーの固定価格買い取りにより確か に電気料金は上がったが、それでも月にコーヒー一杯分くらいの話らしい。日本でも是非やるべきだと思う。
国会はガソリンの税金の話でパフォーマンス、対立劇が演じられているが、特定財源を一般財源化するだけでなく、炭素税として位置づけ、温暖化対策や再生エネルギー導入等に充当してはどうか。太陽光発電や風力発電等によって新たな雇用も創出されるに違いない。

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