田代保育園関係者の工事妨害禁止の仮処分事件・・「お日さまを守った」運動のこと
2005年4月13日
事件の発端
千種区山添町にある田代保育園(前身は田代共同保育所)は、2004年4月から名古屋市の認可園となり、同時に、窓が大きくてかわいい園舎が新築されたばかりの保育園です。
ところが認可園となる準備に追われていた、2003年暮ころ、保育園の南東に10階建て学生マンションの建設計画が持ち上がりました。
山添町は住民の力で良好な居住環境を維持してきた地域であり、また、このマンションが建つとせっかくの新しい園舎が冬の午前中日影になってしまいます。地域と保育園関係者は一体となって、業者に対しマンション計画の変更を要求しました。
定期的な街頭活動、ビラ配り、署名活動、コンサート開催、機関紙発行、業者や市との度重なる交渉、情報公開請求等を利用しての情報収集、建築確認処分取消のための審査請求、建設現場の監視活動・・・建築士の後藤徹先生の助言の下、保育園職員・保護者等が中心となり、本当に様々な活動をされてきていました。
訴えられる!
そうこうしているうちに1年以上経過し、建築主側も焦ってきたのでしょうか。2005年3月初め、強引に建設工事を始めました。そして、それに抗議した保育園設置者ら5人を訴えてきたのです(工事妨害禁止の仮処分。第1回期日は3月30日)。
名古屋市の条例では、保育園に日影を落とす建物を建てる場合、事前に保育園設置者との協議することが求められています。ところが、この業者はまともに「協議」をせずに、よく分らない協議報告書を市に提出する(受けとる市の方も問題です)など、強引かつ不誠実な対応を多々行ってきていました。
私たちは、保育園設置者ら5人に違法な工事妨害と評価されるような行為はない、ここは業者に対しマンション建築差し止めを求める気持ちで、徹底的に戦っていこうという方針を固めました。仮処分は迅速性が要求されるため、準備の期間も長くは取れませんでした。しかし、地域の方々や保育園関係者の協力を得て、30人以上の方々の陳述書を含む多数の証拠を添えて、私たちの主張を裁判所と建築主側に届けたのでした。
全面勝利!?
ところが、第2回期日当日(4月13日)になって建築主側が訴えを取り下げました。数日後、建築主はマンション建築を断念し、土地売却を考えていることが判明しました。
にわかには信じられないほどのあっけない全面勝利解決でした。経験豊富な籠橋・中谷両弁護士の徹底抗戦作戦と保育園関係者らの熱意が、この展開を生んだものと確信しています。とくに保育士の方や、保育園に子どもを預けて働く父母つまり仕事と育児で時間に追われているはずの保護者の方々が、仕事に加えてお日さまを守る運動を展開し続けたことには、敬意を表さずにいられません。
けれども、そうしなければ保育環境を守れない、この社会の貧しさは何なのでしょう。経済的利益だけを追求する業者とそれに追随する行政。問題はまだ解決していません。
山添町では、今後、高層マンション建設問題が持ち上がって紛争が生じないように、「地域憲章」をつくるなど町ぐるみで山添町の環境を守る運動を続けていくということです。
弁護士 山内益恵