首相の靖国神社参拝と政教分離原則
2006年9月21日
憲法から見た靖国神社参拝
小泉首相の靖国神社参拝が問題になっています。A級戦犯を合祀している靖国神社に参拝することで、日本が戦争責任を自覚していないのではないかと、中国などの戦争被害国が強く批判しています。
靖国神社や、A級戦犯を巡る議論には様々なものがありますが、ここでは視点を変えて、憲法の政教分離の原則について紹介します。この頁をごらんになっている方が、靖国問題について考える際のヒントにしていただければと思います。
政教分離原則とは
政教分離の原則は、宗教に対する国家の不可侵性(宗教の教義などに対して国家は口出しをしない)、国家の非宗教性(国家はいかなる宗教から中立である)と言う考え方です。日本国憲法では20条で、宗教団体が国家から援助を受けたり、国家が宗教行為をすることを禁止しています。また、89条においても、宗教団体に対して、国庫から支出をすることを禁止しています。
では、このような政教分離の考え方が憲法で規定されている理由は何でしょうか。一般に以下の三つの理由が挙げられています。
(1)民主主義というものは絶対的な価値というものは存在しない考え方であり、絶対的な価値の存在を前提とする宗教とは相容れないから(民主主義からの要請)
(2)少数者の信教の自由を保護するため。特定の宗教に国家が肩入れすることで、その宗教を信じていない人に対して影響が及ぶのを防ぐため(少数者の権利を擁護するため)。
(3)肩入れされた宗教が国家の権威を背景に堕落することを防ぐため。
政教分離原則の内容、国家の歴史と関係する
ただ、政教分離に対しては、国家によって、その歴史的背景から様々な形態があります。
イギリス イギリス国教会を設立しており、国王が宗教的な権威でもある。カトリックからの干渉を排除するという歴史的経緯。但し、各宗教に対しては広範な宗教的寛容を示す。
アメリカ かなり厳格な政教分離 イギリスから独立したと言う歴史的経緯。但し、友好的な中立関係を採っている。
フランス、イタリア カトリックなどと、国家と宗教は固有の領域で独立であり、競合する事項については協約(コンコルダート)を結んでいる。
日本は、上記のうち、アメリカ型を採用したものと考えられています。ただ、実際に政教分離に該当するのかどうかを判断する場合に、アメリカの規準よりも緩やかに(政教分離原則違反になりにくい)規準を使っているようです。
政教分離の持つ意味
政教分離は、国家が宗教との関係をどのように規定していくかについての原則であり、仮にA級戦犯を分祀することになり、中国などからの反発がなくなったとしても、政教分離原則に反するのであれば、靖国神社に国家の公的地位にある者が参拝をすることは憲法上は許されないことになります。
憲法は国家権力を規制するため、少数者の人権をまもるための規範と考える以上、首相が靖国神社に参拝し、国民の多くがそれを支持したとしても、憲法に反すると行動をとり続けることになるのです。