読書のしおり(3)池井戸潤vol.2
2013年8月2日
先回の続きから。おもしろいと書いた「空飛ぶタイヤ」は、2000年に新聞をにぎわした三菱自動車の脱輪事故を題材にしている。脱輪事故の本当の原因を知るため、大企業の圧力に屈せず、真実を掴むため小さな運送会社の社長赤松は一人闘う。この事故のために責任を問われる小さな会社、整備士、社長、家族、事故の被害者。そして大企業。主役の赤松だけでなく赤松を取り巻く人々も丁寧に描かれていて共感できる。
「下町ロケット」も大企業と中小企業の対決である。「空飛ぶタイヤ」と構図は似ている。大企業が財力にものをいわせ、ロケットエンジンに関する技術をもつ佃製作所を特許訴訟を通じて牛耳ろうとする。佃製作所内部も乱れ始めるが、2代目社長佃も必死でたちむかい正論を貫きとおす。話とは違うところで興味をもったのが大企業の特許専門の顧問弁護士である。新聞に出てくる悪徳弁護士がいることは知っていても少ないから新聞ネタになると思っていた。でもそうではない。大企業を儲けさせるために合法的に道徳的にはいかがなものかということをやる弁護士もいる。弁護士も人間だから金儲けしたいと思うのは当たり前だが、それでもねぇ。そうでない弁護士に救われて良かった。佃製作所の先代からの顧問弁護士、しっかり勉強して下さい。庶民が救われません。小説なのに、そこに力が入った。夫の弁護士事務所は大企業とは縁がないが、それでも庶民の見方でいることは、大企業の弁護士の専門性に負けない能力とあきらめない力が必要だと痛感した。がんばれ!お父さん!「下町ロケット」はなぜか文庫本にならない。それだけ売れているのかも。
「鉄の骨」は、談合について、ゼネコンを舞台にして考えた小説である。談合は悪いことという認識があるがなぜなくならないのか。これが題材の筈なのに読み終わってもわからない。一息に読めるおもしろさがあるが、誰か談合について解説して欲しいものである。「最終退行」では「大企業は国家がつぶさない、中小企業は貸し渋り、貸しはがし」がよくわかる。
「果つる底なき」で江戸川乱歩賞、「鉄の骨」で吉川栄治文学新人賞、「下町ロケット」で直木賞を受賞している。紹介した本以外にもまだ図書館で予約しているものもあり、もうしばらく読み続けると思う。3番目の分類については好みの問題?であると思われるから省略する。つまり、ここに出ていない本はまだ読んでないか、読んだけど3番目に分類されるものになる。
池井戸潤の本は、勇気と夢がある。組織に従いながらも譲れない一線、捨てられないプライドがある。だから魅かれるのかもしれない。働いてもいない主婦なのに。
いまのところ、私の一押しは、「下町ロケット」です。
2013/08/02 長谷川弘子