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事務所だより

『ぷらっとほーむ』権利擁護の人づくり講座 に参加して8(その1)

2013年5月30日

『ぷらっとほーむ』権利擁護の人づくり講座 に参加して(その1)

第8回講座 消費者被害について

弁護士 矢崎暁子

【午前の部】「消費者被害を法的に考える」

午前の部は、愛知県弁護士会の熊田均弁護士が、高齢者の消費者被害の救済に関わってこられた多くの経験に基づき、お話をされました。認知症、孤独、健康・住居・収入に対する不安など、高齢者の「弱み」につけ込む悪質商法の手口の多さ、実際の事例の悪質さに、改めて驚きました。同時に、こ うした「弱み」は誰しもが抱えるものなので、一人ひとりの弱い個人を、孤立させないでサポートできる体制の必要性を強く感じました。

1 消費者被害の類型

(1)住宅リフォーム被害

突然業者が訪問し「耐震基準を満たしていない」などと不安を煽り、次々と不要な工事を契約させるタイプの被害です。

家は、築後何十年も経つと「地震に耐えられるか」など安全性に不安が生じてきます。また、あるアンケート結果では、高齢者の多くが「住み慣れた家、地域でこのまま暮らし死んでいきたい」という希望をもっているそうです。住宅リフォーム被害は、こうした高齢者の不安と希望を背景にしてお り、近年増加傾向にあるそうです。

(2)寝具訪問販売被害

高額な布団や枕を売りつける、昔からある商法です。

「布団にダニがいないか無料でお調べします」などといって布団を調べ、「ダニがたくさんいます!」と不安にさせて高額な布団を売りつける「点検商法」や、「本当は30万円のところモニターとして寝心地を報告していただければ10万円でお売りします」と言って2〜3万円の布団を売りつける 「モニター商法」など、様々な手口があるそうです。

(3)健康食品被害

「ダイエットに効く」「病気が治る」「痛みが取れる」など、健康食品の広告がたくさんみられます。こうした健康食品で、副作用や過剰摂取による健康被害や、高額な商品を会続けることによる経済的被害が生じています。テレビや雑誌などで大きく宣伝されているものの中にも、誇大広告の疑いがあるそうで、いずれにしても、高額な健康食品を購入することには注意が必要と指摘されました。

(4)電話機リース被害

八百屋や商店など、自宅兼店舗で事業を営む事業者に対し、「電話料金が安くなる」などと言って電話機リース契約をさせるものです。事業目的での契約がクーリング・オフの対象外となっていることから、個人でやっている小さな事業者を狙って行われているそうです。

(5)呉服過料販売被害

着物などの呉服を、必要以上に、支払能力を超えてまで次々に購入させるものです。展示会場に客を誘い、帰れないようにして品物を買わせる「展示会商法」や、高齢女性を男性社員がデートに誘い着物を買わせる「恋人商法」などがあります。

(6)エステティック被害

主に若い人が被害に遭うものですが、美顔・痩身・脱毛などのエステティックは、医療行為ではなく、医師ではない者が行うため、技能の未熟さなどで怪我をする等の被害が生じています。

(7)マルチ商法被害

加入者が加入者を次々に勧誘していく商法で、上位になれば配当が増えるなどの特典があるのが特徴です。無限に人を加入させることは当然できませんし、いつかは配当できなくなり破綻するのが必然の仕組みとなっています。また加入者を増やすために必死になりがちで、家族や友人との交友関係をも 破壊する危険があります。

(8)不動産投資被害

今、増えているのが不動産投資被害だそうです。年金制度に対する不安感の増大から、将来の安定収入をうたうマンション投資の契約に乗せられるようです。マンションの販売業者が、「家賃を保証します」と言って強引に契約を迫り、そのあげく購入するとすぐに業者が倒産して逃げたり、「家賃保証する、 ただし2年おきに金額は見直す」という契約内容で、割に合わない額まで下げられたりするケースがあるそうです。

(9)未公開株・社債被害

今、未公開株を「すぐに上場するので高く売れます」などと言って高額で買わせるもの、「この企業は将来有望なので、投資すれば利息が入る」などと言って社債を買わせるものが頻発しているようです。

例えば、ips細胞の研究で山中教授がノーベル賞を受賞した2012年の10月から数か月は、「ips関連企業への投資」をうたう社債被害が激増 したそうです。他にも、レアメタルなど、その時々の最先端の話題を利用して投資を呼びかける例が相次いでいるそうです。

(10)不当請求・架空請求被害

携帯メールやハガキなどにより、不特定多数人にメッセージを送り、法的根拠のない支払をさせるものです。「オレオレ詐欺」改め「母さん助けて詐欺」もこれに含まれます。

法的には支払義務がないので払わなければいいのですが、個人情報を渡していると、友人や親族に電話されてしまい、迷惑をかけたくないと支払ってしまうケースもあるそうです。

2 消費者被害に対する法的対策

望まない契約・不当な契約からの救済手段について、消費者保護法制で定められている主な3つの手段が紹介されました。

(1)クーリング・オフ(特定商取引法)

1不意打ち、あるいは2契約内容が複雑難解という契約類型については、クーリング・オフ制度が設けられており、契約を締結して契約書面を交付され てから8日以内であれば、理由がなくても解約できます。

(2)取消権(特定商取引法、消費者契約法)

事実と異なることを述べた(不実告知)、メリットだけ強調しデメリットを言わなかった(不利益事実の不告)、「絶対もうかる」と言った(断定的利益の提供)など、民法上の「詐欺」には必ずしも当たらない場合についても、情報格差を利用した不当な方法で契約をさせた場合には取り消しできると されています。

(3)未払クレジット残額支払い拒否(割賦販売法)

クレジット契約を利用して商品やサービスを購入した場合、販売業者・リフォーム業者などに騙されたことを理由にして、クレジット会社への支払を拒むことができます。もっとも、既に支払った分については、当然には返還を求めることはできません。

3 まとめ

被害の回復、予防のためには、家族や近隣住民、民生委員さんやヘルパーさんなど関係支援者の協力が必要ということが強調されました。日頃の見守りもそうですし、被害が生じた後には、本人に被害意識をもってもらうには、本人の信頼している人物による説得が重要とのことです。また、契約締結時 の判断能力が問題になるときには関係者の証言が必要になる場合もあるそうです。

近年の悪質商法の手口は、短期間に強引に高額を巻き上げるものになってきているとのことで、日頃から高齢世帯を見守る体制、おかしいなと気づいた人がすぐに市町村や専門家に相談できる環境を作っておく必要性が高いと感じました。

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