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事務所だより

いきなり映画レビュー

2006年5月24日

いきなり映画レビュー

突然ですが、映画好きな事務局員です。
たくさん映画を観てもなかなか良い作品に出会うことがないのですが、ごくたま〜に巡り会うととても嬉しくなります。不定期ですが、多くの人と感動を分かち合いたい作品を紹介していこうと思います。
※なお、これは私の主観的な感想で、当然私とは違うご意見も多数あるかと思います。あくまで私が個人的に好きな作品をご紹介するだけなので、悪しからずご了承ください。

 

子ぎつねヘレン

北海道の5月といえば芽吹きの季節だ。ようやく根雪が解けた大地は見る間に若草色の絨毯を敷き詰め、低く重い雪空が晴れると天は一気に高くなってぴ かぴかの青空が現れる。間もなく訪れる短い夏の間により多くの子孫を残す準備として、動物も草木も日一日とめざましい成長を遂げる。北海道の折々の時節の なかでも、この一瞬の様変わりのときが私は一番好きだ。
『子ぎつねヘレン』は、全てのいきものが躍動を始めるこの季節に、小さな命の一瞬の輝きを描いた映画だ。

転校生の少年・太一が出会った迷子の子ぎつねは、視覚・聴覚・嗅覚に障害を持つ三重苦のきつねだった。目の前で突然手を叩いても微動だにしない。
「まるでヘレン・ケラーだ」とつぶやいた矢島獣医師の一言から、この子ぎつねはヘレンと名付けられる。矢島は、障害を持つ野生動物が生きていけるわけもなく、ヘレンを育てるということは親代わりになる太一にも大変な覚悟が必要だと説く。
最初は冷めた目で見ていた獣医師家族も、ヘレンを献身的に介護する太一に理解を示すようになる。少しずつ学校生活にも慣れ、仕事で海外を飛び回っていた母親も太一の元に帰ってきてくれて、太一の北海道での新しい生活がようやく動き出す。しかしそれと反比例するようにヘレンの命は消えかかっていた。
「ヘレンに一面のお花畑を見せてあげたい!」花の季節にはまだ早い早春の草原を、太一はヘレンとともに駆け抜ける。

この映画はファミリー向け作品ではあるが、決して子供受けを狙ってはいない。むしろ、命の尊さや自然と人間の共存についてわかりやすく説明した大人向けの映画といえるのではないか。
例えば、キタキツネを始めとする野生動物は得体の知れない寄生虫や病気を持っているので、不用意に触れてはいけないこと。野生動物は家畜と違い、厳しい自然環境の中で生きるのに適応しているため、人間がエサをやったり、ましてや捨て猫を拾う感覚で持ち帰るなどもってのほかだということ。
また、動物病院に次々担ぎ込まれる動物たちにはペットもいれば野生動物もいるが、どの動物も人間の勝手な都合で傷ついたり、見放された者たちばかりだとさりげなく訴えてもいる。

映画の結末はハッピーエンドとは言い難い。しかし、命ある者の現実をきちんと描ききっていると思う。
道端で人知れず息絶えるはずだった野生動物を拾ってきた太一の行動は必ずしも正しい行いとは言えないが、新しい親に巡り会い、みんなから愛されたヘレンは 幸せだったのではないか。普遍的なテーマを、北海道の澄んだ空気と大地が爽やかに仕上げている。昨今の悲惨な事件を思えば、こんなにもピュアな作品は貴重 かもしれない。
単純な話なのに、久しぶりに映画を観てボロボロ泣いてしまった。また、私の母校がちょこっとだけ出たこともあり、個人的にかなり贔屓な作品となった。

映画の原作者は北海道オホーツク沿岸の町に開業する竹田津実さんという獣医師で、障害のあるきつねを実際に保護した記録を題材にしたという。この原作本は 未読だが、過去に竹田津氏が出したキタキツネの写真絵本を、私は昔から愛読していた。劇中で矢島獣医が野生のキツネの観察をする場面があるが、これは竹田津氏自身の仕事ぶりを紹介しているものである。
映画公開によって、私の大好きな獣医さんが全国に知られるようになったのは嬉しい限りだ。

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