子どもを巡る法律問題〜(1)親権
2012年2月16日
民法の中には「親子」という章があります。
親子の問題はすべての人に関わりがあり、私たちの生活にとても密着した分野なのですが、普段はあまり意識することもなく生活しています。
そこでこれから何回かに分けて、親子−とりわけ「子どもを巡る法律問題」についてお話ししたいと思います。
(1)親権
「親権」という言葉は聞いたことがあると思います。では親権とは何でしょう。
固い言葉で恐縮ですが、親権は、法律上、子どもの「身上監護権」と「財産管理権」を主な内容とする親の権利の総称です。
身上監護権とは子どもと同居して保護し教育を受けさせ、世話をする権利のことです。これに対して財産管理権は、子どもの財産を管理する権利をいいます。
親権は、表現としては親の権利なのですが、実際には権利と言うよりも、しっかりと子どもを育てなければならない責任だと考えて頂いた方がよいかもしれません。
では、どういった人が親権をもつのでしょうか。
夫婦の間に子どもが生まれれば、父母双方が自動的に親権者になります。もし未婚の母として子どもを出産した場合は、母親だけが親権者です。その父親が子どもの親権者になるためには、まず「認知」をして法律上の親子関係が認められなければなりません。認知があれば、父母の間の協議などで父親を親権者とすることができます。
親権に関して生じている紛争のほとんどは、離婚のときのものです。民法第819条1項に「父母が協議上の離婚をする時は、その協議で、一方を親権者と定めなければならない」と定めています。そのため未成年の子どもがいる夫婦が離婚をするときには、必ずどちらかに子どもの親権者を決めなければなりません。そして、どちらが親権者となるのかは、子どもの視点にたって考えなければならない問題です。もし夫婦の間の話し合いで決まらなければ、家庭裁判所の調停で話し合い、それでも決まらない場合には裁判をしなければならなくなることもあります。
離婚して親権者でなくなった方の親も、血縁上の親子であることは間違いなく、たとえばその親が亡くなったときには子どもは相続しますが、「子育て」という側面では、親権者の考えを尊重して、一歩も二歩も下がったところから子どもを応援する立場にならざるをえません。そこでどちらが親権者になるのかで、泥沼の争いが繰り広げられることにつながってしまうのです。
夫婦の関係はすっかり冷めてしまったけれど、子どもの親権者が決められないために離婚ができないというケースもあります。たとえ父も母も、子どものことを愛していて、子どもを手放したくないために親権を争っているとしても、子どもにとって両親の紛争が長引く状態は、精神衛生上、望ましくはありません。そこで、離婚後も両親ともに親権者となる「共同親権」の制度の導入が主張されているところです。
数は多くありませんが、親権者が子どもに虐待をしている、といったときにも親権はたいへんシビアな問題となります。このような場合には、家庭裁判所が、後見的な立場から親権を制約することができます。たとえば、親権者から虐待を受けている子どもの安全を図るため、親権者の意思に反してでも、緊急に子どもを親権者から引き離さなければならない場合は、児童相談所長が、子どもを児童福祉施設に入所させたり、里親に委託するなどの措置の承認を家庭裁判所に求めます。そして家庭裁判所は、子ども自身の幸せを考えて、それらの措置を承認するかどうかを判断します。親族など関係者の申立てにより、親権者の親権を失わせる「親権喪失宣告」を行って、子どものために後見人を選ぶこともあります。
2012/2/6
弁護士 山内益恵
(ホウネットメールマガジンより転載)
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