債権の回収(9) 抵当権
2011年3月31日
今回は当事者の合意で設定できる担保権についてです。
民法には、抵当権と質権の2つが規定されていて、民法に書かれていない担保権に譲渡担保などがあります。このうち、抵当権は、担保物件のなかでももっともよく用いられているものですので、聞いたことくらいはあるかと思います。
抵当権とは、不動産についての担保で、抵当権設定者が占有を移転しないまま(従って、抵当権がついていても使用したり、収益をあげたりすることができる)担保にすることができ、債権者がその不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます。
抵当権が設定してあると、債務者が弁済をしないときに、典型的には、競売をして、売却代金から自分の債権に優先的に弁済をしてもらえるという、強力な効果があります(優先弁済効といいます)。しかも債権について、判決などをとる必要がありません。
ですので、取引にあたって、抵当権をつけられれば、かなりの安心となります。銀行の住宅ローンなどは、必ず抵当権を設定するので、個人に貸し付けをしても、大きな損はしない仕組みになっているのです。
抵当権は、1つの不動産に何個も設定することができます。複数の抵当権がある場合には順位がつけられて、競売などの強制執行に際しては、順位が上位の抵当権に関する債務から優先的に弁済がされます。2番、3番抵当権では、何も救済されないということもあるので、事前に登記簿で上位の抵当権がないか、ある場合には被担保債権の金額や不動産の価値をよく調べる必要があります(登記簿謄本や固定資産証明書である程度分かります)。
また、実際に競売などをする際にも、競売では一般的に通常の取引よりも価格が低くなり時間もかかる傾向にあります。また、競売申立にも費用がかかります。そのため、交渉により通常の取引で売却し(任意売却といったりします)、売却代金から債務の支払いをさせることもしばしばあります。
このような交渉も、抵当権が強力な権利であるからに他ならず、担保としては極めて有効であることを心にとめておいてください。
2011/3/28
弁護士 加藤 悠史
(中小企業メールマガジンより転載)